念願の一人暮らし。見つけたのは、駅からは少し歩くけれど、日当たりが良くて家賃も手頃な、ちょっとレトロな雰囲気の漂う築古アパートだった。内見の時には気づかなかったのだが、引っ越してきて改めて玄関の鍵を見ると、なんとも頼りない、昔ながらのギザギザの鍵。「これ、防犯的に大丈夫なのかな…」。不安がむくむくと湧き上がってきた。前の入居者が合鍵を持っている可能性だってゼロではない。特に女性の一人暮らしとしては、この鍵のまま暮らすのはどうしても抵抗があった。そこで、思い切って大家さんに鍵交換をお願いしてみることにした。アパートの管理は、隣の家に住んでいる大家さん自身が行っている。人の良さそうなおじいさんだが、少し頑固そうな雰囲気もある。緊張しながらインターホンを押し、事情を説明した。「あのう、玄関の鍵なんですけど、ちょっと古くて防犯が心配なので、新しいものに交換していただくことはできませんでしょうか?」大家さんは少し驚いたような顔をして、「え、鍵?今まで誰もそんなこと言わなかったけどなあ。ちゃんと鍵はかかるんだろう?」と返してきた。「はい、かかるとは思うんですが、最近はピッキングとか物騒な話も聞きますし、できればもう少し防犯性の高いものに…」と食い下がってみたが、大家さんの反応は鈍い。「うーん、でも交換となると費用もかかるしねえ。特に壊れてるわけじゃないんだろう?」明らかに乗り気ではない様子。費用負担の話になると、さらに話はこじれそうだ。一旦引き下がり、賃貸契約書を確認してみた。鍵交換に関する特約事項などは特に記載されていない。一般的に、入居者が自己都合で鍵交換を希望する場合、費用は入居者負担になることが多いとネットで調べた。しかし、今回は防犯上の理由であり、そもそも設置されている鍵の防犯性が低いことが問題だ。なんとか大家さんに負担してもらえないだろうか。数日後、再び大家さんの元を訪れた。今度は、ネットで調べたピッキング被害の実態や、古いタイプの鍵がいかに危険かといった情報を印刷して持参した。「大家さん、この鍵だと本当に心配なんです。もし何かあってからでは遅いので、どうか交換をご検討いただけませんか?」資料を見せながら、必死に訴えた。私の剣幕に少し押されたのか、大家さんは渋々ながらも、「まあ、そんなに言うなら、一度鍵屋に見積もりだけ取ってみるか」と言ってくれた。
築古アパートの鍵交換大家さんとの攻防記