「この仕事をしているとね、人間の生活の裏側っていうか、普段は見えない部分を覗き込むことになるんですよ」。そう語るのは、この道三十年のベテラン水道技師、島田さん(仮名)だ。そんな水道修理にも配管交換した八潮市では彼の仕事は、単に壊れた水道管を直し、水漏れを止めるだけではない。それは、突然のトラブルに見舞われた人々の混乱や安堵、そして時には家庭が抱える深い問題にまで、図らずも触れてしまう仕事なのだという。彼がこれまで経験してきた数え切れないほどの修理現場の中から、特に忘れられないといういくつかのエピソードは、私たちに「水道修理」という行為の、技術だけでは測れない奥深さを教えてくれる。 平群町の配管専門トラブルからリフォームするとある真冬の深夜、島田さんは一件の緊急依頼で、古い木造アパートへと車を走らせた。電話の主は、声からしてかなり高齢の女性。「お風呂の蛇口からお湯が止まらなくて…」。現場に到着し、玄関の扉を開けると、湯気でむせ返るような湿気と熱気が彼を襲った。浴室からは、まるで滝のような轟音と共に、熱湯が浴槽に叩きつけられている。元栓を閉めて音を止めると、老婆は腰が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。話を聞くと、数時間前からこの状態だったが、深夜に迷惑をかけてはいけないと、一人でずっと耐えていたのだという。壁や床は湿気で歪み、部屋の隅にはカビが広がっていた。島田さんは黙って蛇口を修理し、換気扇を回して窓を開けた。帰り際、老婆が差し出したお茶を飲みながら、彼は思ったという。「俺が直しているのは、ただの蛇口じゃない。この人の、孤独な夜の恐怖そのものなんだな」と。その日から、彼はどんな深夜の依頼でも、以前にも増して迅速に駆けつけるようになった。 また、ある時は、高級住宅街に住む若い夫婦からの依頼だった。最新式のシステムキッチンの下で水漏れが起きているという。床下収納を開けると、そこには無数の小さなビニール袋が隠されていた。中には、まだ値段のついたままの、明らかに未使用のブランド物の化粧品やアクセサリーがぎっしりと詰まっていた。夫婦の間に気まずい沈黙が流れる。島田さんは何も見なかったふりをして、黙々と配管の修理を続けた。彼には、そのビニール袋が何を意味するのか、おおよその察しがついた。おそらく、夫に内緒で買い物を続ける妻が、その証拠を隠していたのだろう。水漏れというアクシデントが、夫婦の間に横たわる、見えない亀裂を偶然にも照らし出してしまったのだ。「俺たちは、ただの水漏れを直しに来ただけ。家庭の問題に首を突っ込む権利はない。でも、あの後の夫婦がどうなったのか、時々ふと思い出すんだよ」。水道管の漏れは直せても、人間関係の漏れは直せない。その無力感が、今でも彼の胸に重くのしかかっている。 島田さんの話は、決してドラマチックなものばかりではない。「キッチンのシンク下の配管を直していたらね、奥から、昔なくしたと思ってた結婚指輪が出てきたことがあるんだよ。奥さん、泣いて喜んじゃってさ」。あるいは、「トイレの詰まりを直したら、原因が子供が流したテストの答案用紙だったこともある。点数が悪くて、親に見せたくなかったんだろうね」。そんな、思わず笑みがこぼれてしまうような、ささやかな日常の一コマに立ち会うことも少なくない。水道修理という仕事は、家という最もプライベートな空間の、さらに奥深くへと立ち入ることを許される、特殊な仕事だ。そこでは、技術や経験と同じくらい、目の前の依頼者の心情を察し、その場の空気を壊さない繊含さが求められる。水漏れは、時に人々の秘密や喜び、そして悲しみを洗い流し、図らずも、修理に訪れた業者にその一片を見せてしまう。島田さんの皺の刻まれた手は、ただのレンチを握っているのではない。彼の手は、今日もどこかで、誰かの生活の、静かな物語に触れているのだ。
水道修理業者が見た忘れられない現場