あれは忘れもしない、冷たい風が吹きつける冬の夜のことでした。友人との楽しい食事会を終え、ほろ酔い気分で自宅アパートの前に着いたのは午前零時を少し回った頃。いつものようにコートのポケットに手を入れた瞬間、背筋が凍りました。あるはずの場所に、鍵の冷たい感触がないのです。「まさか」。心臓が早鐘を打ち始めました。慌ててカバンの隅々まで手を入れて探りますが、鍵はどこにも見当たりません。ハンドバッグの中身を道端にぶちまけそうになるのを必死でこらえ、もう一度コートのポケット、ズボンのポケット、考えられる場所すべてを探し尽くしました。しかし、結果は同じ。鍵は、ない。酔いは一気に醒め、代わりにじっとりとした冷や汗が額に滲みます。最後に鍵を使ったのは家を出る時。どこで落とした?レストランか、帰り道か、それとも…。記憶を必死にたどりますが、確信は持てません。レストランに電話してみましたが、閉店時間を過ぎており誰も出ません。来た道を引き返してみようかとも思いましたが、暗い夜道で小さな鍵を見つけ出すのは絶望的に思えました。アパートのドアの前で立ち尽くし、途方に暮れました。家族は遠方に住んでおり、すぐに来てもらうことはできません。大家さんに連絡することも考えましたが、こんな真夜中に叩き起こすのは申し訳なく、気が引けました。スマートフォンの画面に映る現在時刻が、私の焦りを増幅させます。このままでは、朝まで外で過ごさなければならないかもしれない。寒さが身に染みてきました。震える手でスマートフォンを操作し、「鍵 紛失 深夜 開錠」と検索しました。いくつか鍵屋の広告が表示されましたが、深夜料金は高額だろうという不安がよぎります。それでも、この状況を打破するには専門業者に頼るしかありません。いくつかの業者に電話をかけ、状況を説明し、料金を確認しました。どの業者も似たような料金体系でしたが、電話口の対応が丁寧だった一社に依頼することに決めました。待っている間、様々な考えが頭を巡りました。なぜもっと鍵の管理をしっかりしなかったのか。キーホルダーにつけていれば、カバンの定位置に入れておけば…。後悔ばかりが募ります。ようやく遠くに車のライトが見え、鍵屋の作業車が到着したときには、心底ほっとしました。